本書はいわゆる純粋経験の立場から哲学の全領域にわたって整然と組織された哲学体系である.のちの西田哲学の基礎となり,かつ純粋経験によって知識・道徳・宗教の一切を基礎づけようとする強靱な思惟に貫かれたこの処女作は,明治以後邦人のものした最初の哲学書と言われ,多くの人に迎えられて今日に及ぶ. (解説 下村寅太郎)
殉死の問題を取り扱った作品で、封建制のもとでの武士道の意地が、人間性をぎりぎりにまで圧迫して、ついにはその破滅に至らせる経緯を、簡潔な迫力ある筆で描いた歴史小説の傑作。他に鴎外の初期歴史小説の代表作『興津弥五右衛門の遺書』『佐橋甚五郎』の二篇を収める。
秀才だが世才に乏しい文三の失職を機に、従妹お勢の心は軽薄才子の昇に傾いてゆく。 自意識過剰の中で片恋に苦しむ文三の姿を中心に各種の人間典型を描きながら、官僚腐敗への批判をひらめかせている。 最初の近代リアリズム小説であり、その清新な言文一致の文体は明治文学の出発点となった。
蘆花は、富士の見える逗子海岸で、毎日接する自然の姿を賛美し、そのなかでの人間の生き方について絶えず考えて暮らした。その結晶がこの『自然と人間』である。ここに所収の『灰燼』を始め『自然に対する五分間』『写生帳』などの諸篇は、戦前しばしば、教科書に載せられてきた。明治三十三年刊。
零落した旧家の一人息子菊池慎太郎の波瀾に富む人生を描いた長篇小説.主人公の思想と情熱,彼を取り巻く人々の人情,明治二○年代の世相の描写などには,多分に作者の自伝的要素が含まれている.『黒い眼と茶色の目』『寄生木』などの系列につらなり,蘆花の文学的生涯を知る上に重要な鍵となる作品.
明治も末近いころの、なつかしい江戸の面影が 朝靄の中の灯のように残っている風景とその季節的推移が、この小説の真の“主人公”である。うら若い男女のはかない交渉と周囲の人情の経緯を、影絵のような美しい点景として配している。